ここでカフェを始めるとき、二つのことで経営をするか否か、思考を巡らせた。一つ目は当然、このコロナ禍で閉店する方が多い中で、あえて開業することへの判断。2つ目は、以前の店舗が備えていたパン工房設備を引き継ぐかどうかのへ判断。前者は最初のコラムで書いたように実はあまり深く考えず、引き受けてしまったのだが、後者は結構悩んだ。30席規模の小規模と言える店舗で、本格的なコーヒーと料理を出せる厨房設備があるだけでなく、スクラッチでパン製造が可能な設備を備えていた(のちに相当手を入れることになったが)。パン工房を撤去すれば、8席は確保できるスペースが取れるし、ちょっとしたオフィスやスタッフの更衣室や休憩室にも使えそうだ。しかし、パン工房を稼働させれば、ここを任せられる優秀なブーランジェが必要だ。当然、その分、人件費が増える。経営的にはスペースをとる非効率さと固定費の増大はリスクだ。そう、普通に考えれば、パン工房は引き継がず、イニシャルコストを抑え、固定費を抑え、フレキシブルな空間を確保することを選ぶべきだ。しかし、それとは別の判断をした。
なぜか。まず、店長山脇のこのカフェ経営に対するビジョンに耳を傾けたこと。サンドウィッチを出すカフェはいくらでもあるが、スクラッチで焼成するベイカリーを持つカフェはそうない。カフェのオリジナリティとして、重要な要素である、というもの。確かにそうだ。しかし、それにはこのパン工房を任せられるブーランジェがいることが不可欠だ。そこで条件を出した。パン工房を任せられる人材を1ヶ月間で探せるかどうか、それで決めよう、と。
そして、優秀なブーランジェである星野と出会うことになり、パン工房を引き受けることを決断した。星野とはまず、カフェの柱となるサンドウィッチのピタパンの開発から始めた。オープン前に何度も試作を重ね、今のピタパンのレシピに落ち着いた。ここのピタパンは、他のどのパン屋にも負けない美味しさを持っていると自負している。キッチンスタッフには、このピタパンにふさわしいサイドウィッチの具材開発に注力してもらった。その成果がファラフェル 、シャワルマ、テキサスBBQポークバットというラインナップだ。
そして、オープンから2ヶ月経つ10月、念願のパン工房を本格的にスタートする。商品は、バゲット 、パンドカンパーニュ、パンオノア、唯一の甘いパンであるカルダモンロールの四種のみ。どれもが基本的であるが、とても奥が深く、僕が愛してやまないパンだけにした。まだ自分がイメージする味わいと歯応えとは少し異なるが、お客様に恥ずかしくないものをお出しできるようになった。是非、皆様からの意見を聞かせて下さい。
明後日、10月1日。Boulangerie Ubuntu始動します。
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